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蜂群崩壊症候群について [生き物]

蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder,CCD)とは、
ウィキペディアによると、
一夜にしてミツバチが原因不明に大量に失踪する現象です。
2006年秋~現在にかけてセイヨウミツバチ(以下ミツバチ)が
一夜にして大量に失踪する現象が米国各地で起こっており、
その数は米国で飼われているミツバチの約4分の1。
北半球全体でも同様の現象が起こっているそうです。

この現象について詳しく書かれた話題の本、
『ハチはなぜ大量死したのか』を読みました。
(原題は、Fruitless Fall:
The Collapse of the Honey Bee and the Coming Agricultural Crisis)

「犯人はこれだ!」
というのを突き止める謎解きだと思って読み始めましたが、
その答えは結構複雑でした。その要点は後述するとして、
この本を読んで、なんといっても面白かったことは、
ミツバチの魅力が存分に伝わってきたことです。

1匹あたり1gしかない脳で、作り上げた緻密で知性的なコロニーの
その何とも魅力的なこと。
例えば、こんな表現があります。

 マルハナバチは無骨な開拓者タイプだ。
 驚くほど自立していて、畏怖の念を抱かされるほどだが、協調性に乏しい、
(中略)
 一方、ミツバチは、個々のメンバーの風采はあがらないけれども、
 忠誠心に富み、組織は厳格に統制されている。
 闘争が起こるようなことはまずない。
 マルハナバチがガリア人の村人だとすれば、
 ミツバチはローマ帝国の軍団だ。

ミツバチをローマ帝国に例えたこの記述は、個人的にはキタ!
というのでしょうか。
折りしも、先日、塩野七生さんの『ローマ人の物語』シリーズの
『すべての道はローマに通ず』という巻を読んだ所で、
ローマ人が作った、道や、橋、水道といったハードなインフラや、
医療や教育といったソフトなインフラについて頭に残っていた所だったので、
ミツバチの作り出す、驚異的な建造物である巣や、
その良く出来た集団生活について、非常に面白く読むことができました。

『ローマ人の物語』を読んでいると、ローマ皇帝の多くは、
独裁者というより、ローマ社会を維持するための奉仕者として、
大変な責務を果たしているなぁと思うことが多々あります。
ミツバチの社会でも、「群集の知恵」という哲学に従って、
食物の取り込みや巣の建設などのニーズを正確に調整しており、
女王蜂も支配者というより、集団生活を支える産卵の専門職のようです。

ミツバチの様な小さな昆虫が、
このように高度に発達した集団社会=コロニーを作りうるのか、
とても不思議です。
そして、このミツバチは、蜜を提供するだけでなく、受粉を通して、
多様な生態系を支えたり、人間の食生活に大きな貢献もしていることが
分かりました。

本書には、ミツバチの魅力を伝える、面白い付録記事も満載です。

付録1 アフリカ化したミツバチのパラドックス
   (さらに、前述のミツバチの巣に関して、
   人知をも超えた緻密さの一端も明らかになる!)

付録2 ミツバチを飼う
  (養蜂器具の販売先や飼うための情報源が記載してあります。
   残念ながら、当然アメリカで飼うことを前提としていますが。)

付録3 授粉昆虫にやさしい庭作り
  (授粉昆虫のことを考えて庭作りをするのは、
   身近に出来る環境復元のための第一歩です。
   自分の住む地域でも、ミツバチが住める環境を保全していかないと)

付録4 ハチミツの治癒力
   (ハチミツの素晴らしさが良く分かります。
   僕は、かつてはハチミツが好きだったのですが、
   国産のものはどんどん無くなり、その上、最近は、
   ハチミツを真似たシロップがスーパーの売り場に並んでいるので、
   ハチミツから離れて、メープルシロップの方にシフトしていましたが、
   安心できるハチミツを見つけよう!と思いました。)


さて、蜂群崩壊症候群の犯人探しの件ですが、
これについて、書くことは、本当に気が重い。

本書では、犯人を追う過程で、順番に、
ミツバチたちがかかえることになった様々な問題が
浮かび上がってきます。容疑者になったものは怪しいものを含めて、

・外国からやってきたダニ説

・携帯電話説(コードレス電話を巣箱につっこむと、
 ミツバチが巣に帰れなくなる実験について
 紹介していますが、筆者は、遠い場所の携帯電話の電波の影響と
 考えるのは、はなはだしい飛躍と、常識的判断をしています。)

・遺伝子組み換えのトウモロコシ説

・地球温暖化説

・イスラエル急性麻痺病ウィルス説

・ノゼマ病微胞子虫説

・ネオニコチノイド系農薬説

そして、さらに、伝統的な養蜂を超えて、
アーモンドの受粉等の道具として、人間の経済に組み込まれたことによる、
ミツバチの個としてコロニーとしての疲労の蓄積説。
(これは、ミツバチ蟹工船の世界です。。)

筆者によると、上記の様な、現代社会の様々な要因と環境の激変が複合して、
緻密に作られたミツバチのコロニーのシステムに回復不能な
大きな打撃を与えているようで、はっきりとは特定はできないが、
これが、蜂群崩壊症候群につながっているのではないかとしています。

これを読んでいると、ミツバチが可哀想になります。
そして、これはミツバチだけの問題ではなく、
花の誕生で生まれた、植物と動物の共生による多様で豊かな生態系が
現在進行形で、急激に崩壊を始めていることが書かれています。

これを止めるためは、この本では、
ミツバチのコロニーに本来そなわっている
復元力を回復させるにはどうすれば良いのかについて、
様々な示唆に富む事例を紹介しています。

僕の周りでも、昔は色々な種類の花や緑があって、
色々な昆虫が溢れていた記憶があるが、最近はあまり見かけなくなっている。
まずは、身の回りのミツバチを注意して観察しようと思いました。

蜂群崩壊症候群は、ウィキペディアでも詳しく解説されています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9C%82%E7%BE%A4%E5%B4%A9%E5%A3%8A%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4


ハチはなぜ大量死したのか

ハチはなぜ大量死したのか

  • 作者: ローワン・ジェイコブセン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/01/27
  • メディア: 単行本



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Mercedes

小さな事から始まって、それがもの凄く大きな出来事につながる事は
私達の周りの、思っている以上に起きているのかもしれませんね。
ミツバチはIT頭脳(使える言葉かな?)なのですね。
大変興味深く読ませて頂きました。
by Mercedes (2009-03-21 21:44) 

miron

☆Mercedesさん、おはようございます。
興味深く読んでいただき、ありがとうございました。
昨日は、家の花に、ニホンミツバチが1匹飛んできているのを確認し、
少し安心しましたが、日本でも交配用のセイヨウミツバチは大変な状況なようです。(昨日は、今年初めてツバメも見ました。)
http://mainichi.jp/life/today/news/20090226ddm013100140000c.html

自然の営みは、毎年同じように繰り返しれていように見えますが、
自然環境は、思っている以上に変っているようです。

ミツバチのIT頭脳と、人間の知恵(アメリカではCCDについて多額の予算を投じて研究が始まっているようです)で、この苦難を乗り越えていけたらと思います。

そういえば、スーパーで早速、青森津軽平野のリンゴの花で作ったハチミツを買ってきて、食べました。目の前にリンゴの花が咲いている景色が浮かんでくる、なんとも香り豊かなハチミツでしたよ。



by miron (2009-03-22 09:23) 

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