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クラウス家の受難 [小話]

クラウスの息子クリスが発熱したのは、10月最初の土曜日のことだった。
その日の夕方、クリスはぐったりして、居間で寝転がっていた。
クリスは寝転びながら体温計を脇にはさんでいた。
そして、母クラリスに、「38度5分。」と伝えた。
驚いた母はクリスに聞くと、外で遊んでいた昼頃から頭が痛かったと言う。
母は、直ちにクリスを車に乗せ、休日診療所に連れて行った。
もしインフルエンザだったとしたら、少しでも早い段階で、
タミフルか、リレンザを処方してもらうことが大事なのだ。

固唾を呑んで待った、病院でのインフルエンザの検査結果は、陰性だった。
発症から6時間以内は、反応が出ないことがあるのだ。

病院で、医師は尋ねた。
「家族にインフルエンザの人はいますか?」「いません。」
「学校ではどうですか?」
「流行りはじめています。」と母が答える。
自分はインフルエンザではない、と固く信じるクリスが、それを否定する。
「ぼくのクラスにはいません。」
母があわてて補足する。
「同じクラスでは、昨日体調が悪くて、昼で帰った子がいます。
となりのクラスにインフルエンザで休んでいる子が1名います。」
クリスが補足する。「疑いがあるだけです。」

苦笑して医師が尋ねる。
「他に、インフルエンザ患者との感染は考えられますか?」
母は思い出す。
「中学生の兄がインフルエンザだった子の家に、遊びにいっています。」
クリスが否定する。
「1週間ちょっと前。その子の兄さんは直っていたし、部屋には入っていない。」
「1週間以上前ですか? 潜伏期間を考えると、そこでの感染の可能性は低いですね」
母はインフルエンザであると判定し薬をもらいたいし、
医師とクリスは、結託して、インフルエンザであることを否定していた。
「明日、熱が下がらなければ、また来て下さい。」と医師は結論を出し、
その日は、解熱剤と普通の風邪薬を処方してもらい、帰宅した。

その夜、クリスの症状はさらに悪化を続けた。
咳がひどくなり、翌日の日曜の朝には、熱は39度5分となった。
母は、病院に電話をし、クリスを再び病院へ連れて行った。

母は間違いなく、インフルエンザだ、と確信していた。
適切な薬を早く処方して欲しい。
しかし、医師は、再検査をためらっていた。
「病院では検査薬は不足していて、
可能性が低い患者の検査は止めたい。」という事情でもあるのか?
と母はいぶかる。

それでも母は、強く再検査を希望し、
押し通して再検査をすることとなった。

そして、今度のインフルエンザの検査結果は陽性だった。
医師は「季節性インフルエンザですね」と、伝えた。
新型かどうかの検査はされなかったが、
ついにインフルエンザの特効薬であるリレンザが処方された。

家に帰ってきたクリスに、クラウスは尋ねた。
「新型インフルエンザだった? 特効薬はもらえた?」
クリスは、かすれた声で否定した。
「季節性。」

クラウスは、病名がはっきりすることを好む特性がある。
病名がはっきりすれば、適切な処置をすることが可能となる。
しかし、何故、クリスは、頑なに新型を否定するのか?
クラウスは、仕事場で、同僚が新型インフルエンザにかかった時の
周りの対応を思い出す。

十分に休めば良いよ、という言葉の裏に、うつすなよとの思い。
そして、熱が下がり、十分な期間自宅待機して復帰した同僚に対しても、
感染を恐れ、最初はなるべく言葉を交わすのは避けようとしたりする。

大人ですらこうなのだ。
十分な知識を持たない子供の世界はさらに残酷かもしれない。

知人から聞く話では、公表する不都合を恐れ、
職場を病気で休んだ人は、
周りの人に対して普通の風邪であろうとするらしい。
周りは、怪しいなぁとおもいつつも、その只の風邪、
という言葉を信じようとする。
しかし、偽って、職場に早く復帰しすぎることで、
感染が広がるリスクがあり、これは望ましいことではない。

我々に必要なことは、正しい医学的知識による
冷静で、温かい対応なのだ。

クラウス家では、家族のものに感染しないよう、
クリスを一部屋に隔離し、十分に気をつけて看病にあたった。
そして、リレンザの効果もあったのか、
クリスの熱は発熱後3日後には平熱に下がった。

それから2日して、医師に治癒証明書をもらい、
今週末の連休もあったので、クリスは今日まで11日間自宅で過ごした。

明日の火曜日から、クリスは久しぶりに学校に行く。
休みの間に、クリスは友達から、クリスがいないとさみしい、とか、
早く良くなれよ、という手紙をもらっていた。
明日学校で、友達がクリスを温かく迎えてくれたら嬉しい、
とクラウスは思うのだった。
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