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パンの消滅 (The missing bread) [小話]

前回に引き続き、森博嗣さんの本を読んでいる。
『幻惑 の 死 と 使途』と、『有限 と 微小 の パン』を読了。
どちらもとても面白かった。
そういえば、少し前にTVでやっていた、
三谷幸喜さんの『古畑中学生』もなかなか面白かった。
と、いうことで、今回も、ちょっとだけミステリィ風に?

中学1年のころ、暑い夏の日のことだったと思う。
授業中に先生が、教室の後ろの片隅に転がっていた、パンを発見した。
パン、それは、その日、給食に出てきたもので、
給食の前に配られる薄い紙ナフキンで、包まれていた。

「誰だ、ここにパンを、置いたのは?」
先生が、必要以上にキツくいったので、
誰も名乗りをあげなかった。

先生も、収まりがつかなくなったのだろう。
「持ち主がでてくるまで、授業はしない。」
と理不尽なことをいった。

沈黙が続くが、誰も名乗りを上げることは無く、
先生は、職員室にひきあげていった。

教室は、にぎやかになった。
授業が無くなって、喜んで、ふざけている子もいたが、
大部分が「どうしよう?」という感じだった。

好意的に解釈すれば、
先生は、生徒による自主的な解決を望んでいたのだろう。
生徒だけになり、しきいは低くなったが、
自分のパンだ、と名乗る子はでてこなかった。

先生が見つけたパンは、教室の後ろの床に紙に包まれて転がっていた。
教室の後ろは、壁に黒板があり、その下は、カバンをいれる棚となっていた。
きっと、棚にいれたカバンから、転がり落ちたのだろうと推測された。

そして、当時は学校での躾が厳しく、
給食は完食するように指導されており、
パンを残して、家に持って帰ること自体が、禁止されていた。
こんなことも、名乗り難い原因だったんだろう。

いっそうのこと、パンが消滅すればいいのにと、ぼくは思った。
誰も傷つくことなく、パンが無くなれば、
先生も、怒る理由が無くなるに違いない。
その時、ぼくの頭に、あるアイデアがひらめいた。

ぼくは、仲の良い友達に、その考えを話した。
友達は、「面白い!」と、周りの子にも説明した。
クラスの皆もその話にのってくれたので、
パンを消滅させるための、壮大な(?)実験が行われることとなった。

ぼくらの教室の隣は、空き部屋だった。
ぼくと友達は、紙ナフキンで包んだパンを持って、
その人気が無い隣の教室に入り、
黒板の前の教卓の上に、パンを置いた。
そして、その上に、ブリキのバケツをかぶせて、中が見えないようにした。

「準備ができたよ」と、クラスに戻って合図をした。
待ち構えていたクラスメイトは、出席番号順に一人づつ、
カバンをもって、隣の部屋に入っていく。

ルールはこうだ。
☆自分のパンの人は、バケツからパンを取り出し、自分のカバンにいれて、
 また、バケツを元に戻しておく。

☆自分のパンでない人は、そのまま、戻ってくる。
 ただし、絶対に、バケツの中は覗いてはいけない。

最後のクラスメイトが戻ってきたら、バケツを片付けに戻る。
その時には、パンは消滅しているはずだ。

お化け屋敷に入るように、
一人ずつ、びくびくしながら、隣の教室に行っては帰還してくる。
ぼくは、ワクワクしながら、自分の番を待っていた。

10人ぐらいが終わった時だろうか、
この作戦は、突然の破綻をきたす。
先生が戻ってきたのだ。「何をやっているのだ!」

立案者のぼくは、パンの消滅計画についての説明を行った。
しかしながら、当然ではあるが、先生のお気には召さなかったようだ。
「そんな事は止めなさい。」
先生は、隣の教室に入り、バケツを片付け、教室に戻ってきた。

「パンの持ち主は、後から職員室に来るように。」
と先生はパンを自分の教科書の横に置き、
授業が再開された。

誰かその後、職員室に行ったのか、ぼくは知らない。
だから、パンの行方は知らないままだ。

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アヨアン・イゴカー

素晴らしいアイデアです。このパンを誰が残したかを捜すやり方で、井原西鶴の小説を思い出しました。小判がなくなって、気まずい雰囲気になった、宴会の話だったと思いますが。
この小学校の先生は、無粋な人で、残念ですね。
by アヨアン・イゴカー (2008-07-05 21:45) 

miron

☆アヨアン・イゴカーさん、おはようございます。
『井原西鶴 小判』で、検索をかけてみたら、それらしい
話がでてきました。『西鶴諸国ばなし』ですね。
http://inkas.or.tv/koten/ofo1.htm

大した事でもないのに、誰かクラスメイトが傷つくことにも
なるので、犯人を捜すことより、
犯人が分からなければ良いのに、
というのが、その時、思っていたことでした。
最後まで、この実験をやりたかったのですが、
ひょっとしたら、最後まで残っていたらどうしようとか、
途中で、誰かが覗いたりとかのトラブルで、
誰だか分かったらどうしょう、
とか、不安もありました。
その時、中断させた先生は、無粋だと思いましたが、
この年になってみると、先生が妥協した方法は、
シンプルながらも、先生以外に犯人は分からず、
まぁまぁの方法だったなぁと、思っている次第です。


by miron (2008-07-06 09:41) 

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