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キムタク似 [misc]

その日、僕は電車に乗っていた。
二人がけの席のうち、窓際の席に座っていた。
僕の横には女性が座っていた。

ある駅で、人目を惹く若者が乗ってきた。
いかにもキムタクに似せた、
髪型、ファッション、格好の若者だった。
(といっても、僕はキムタクのことはあまり知らないのだが。)

Tシャツのイラストは、何故かチェ・ゲバラだった。
僕は、iPodでたまたま、
ジョン・レノンの"Give Peace a Chance"を聴いていたので
ワォと思った。
キムタク似は、僕の座席の横の通路に立った。

次の駅で、僕の横の女性が降りて、
キムタク似が、僕の横に座った。

しばらくして、
僕は、読んでいた本がきりがついたので閉じた。
すると、となりのキムタク似が、敏感に反応し、
突然、足をきゅっと体に寄せて、前を通れるようにした。
僕が、次の駅で降りると思ったようだった。

しかし、僕は次の駅では降りない。
キムタク似は、ずっと足を体に寄せて、身を屈めて、
ずっと待っていた。
しかし、僕は、降りないのだ。
僕が降りるのは次の次の駅なのだ。だから、ほっといた。
(降りませんよと言うか、そのそぶりを見せるべきだったのだろうか?)

やがて電車は駅に到着し、ドアが開き、人が出入りする間、
ずっと、キムタク似は、ずっと、その窮屈な格好のままだった。
しかし、ドアが閉まりかけようとした瞬間、豹変した。
キムタク似は、突然、足をどかっと投げ出した。
こんなに生意気な足の投げ出し方があるのだと関心するぐらいに
見事な足の投げ出し方だった。

怒っているに違いない。と僕は察した。
僕はキムタク似に怒られるようなことをしたのだろうか。
気まずい気持ちだった。

電車が動き出した。
その気まずい雰囲気の中、しばらくして、
僕は、聴いていた音楽のきりがついたので、
こそっとiPodを鞄に片付けようとした。

すると、何と、キムタク似は、またしても敏感に反応し、
投げ出していた足をすっと手前に寄せて、身を屈めたのだ。
怒っていたのではないのか?

確かに僕は次の駅で降りる。
しかし、次の駅まではまだ、大分時間がある。
席を立つべきなのだろうか?
キムタク似にせかされて、席を立つのも悔しかったので、
大人気ない僕は、しばらくほっといた。
キムタク似は、健気にそのままの格好を保っている。
プレッシャーがかかる。
とうとう、僕は耐えられなくなって、
駅につくのは大分早いのだが、立ち上がった。
そして、キムタク似の前を通る時、「すみません」と小さな声で言った。
いつも、前を通る時にいう、「すみません」は、
こんなに気持ちをこめてはいないのだが、特別に力が入った。

気が利きすぎるのも、周りに気を使わせるものである。
キムタク似、そんなに気を使わない方が、
周りも自分も自由に生きれると思うよ。


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